俳優の卵から教わったこと(2)


大学受験の先にあるもの〜職業を考える〜


【執筆】小谷祐子(フリーライター


友人が勤めていた会社を辞めて、劇団の研修生になるという話を聞いたとき、私は本当にびっくりしてしまいました!
たしかに彼は、とても明るくて人を楽しませるキャラクターではあったけれど、舞台とか芸能関係のイメージではまったくなかったのです。ラグビーをやっていて、どっちかというとごついタイプだったし、俳優志望だっていうのも、ぜんぜん聞いたことありませんでした。
しかもこのとき彼はすでに25歳。研修生には18〜20歳くらいの人が多いようなことも言っていました。明らかに遅いスタートです。
また彼は、たしかに人間的に魅力的なタイプでしたが、それがイコール俳優としての魅力になるとは限らないだろうし、俳優として成功する保証なんて、どこにもありません。


そんな不確実なものに飛び込んでしまって、つぶされてしまったらどうするんだろう!  
華やいだ世界に飛び込もうとしている友人を応援したい気持ちと、挫折して傷ついた彼を見るのはつらいなあという、なんだか両極端の気持ちを持ったものです。

でも、彼自身はそのとき、成功するかしないかというより、チャレンジする何かを求めていたようです。


「俺、年のことはいいわけにしたくないんだ。とにかく全力でがんばる」


バイトと両立しながら、彼は演劇の勉強をしていきました。
ラガーマンだったから体力には自信があったようですが、ダンスなどはまったくの素人。体が固いということもあって相当大変だったようです。そのころはよく、「バク転ができるよう、練習中なんだ」というメールをもらったものです。
また、舞台の発声の仕方も独特なようで、ずいぶんのどを痛めていました。「セリフを言う声がかすれてしまって聞き取りにくいって言われるんだよね。俺の弱点なんだ」とのこと。


彼の話を聞きながら、俳優には演技力はもちろんだけれど、体力、身体の能力がまずはモノをいうのだなあと感じたものです。努力で補える部分もあるだろうけれど、その前に身体を壊してしまう人もいるのかもしれません。
1年の後、卒業公演で見た彼が、元ラガーマンの面影もないほどほっそり! 相当しぼって身体を作ったようです。彼のガンバリが、身体を見れば伝わってきました。


研修生として一区切りついた後も、劇団に残らないかと言われ、彼は演劇の勉強を続けました。
ダンスもまともに踊れなかった彼が、ウエストサイドストーリーを下地にした舞台で、見事なダンスを披露したときには、本当に感動してしまいました!
身体が、舞台の人のそれに近づいていっているんだ! というのが、観客の私にも伝わってきたのです。


しかし、しばらく経ってから、別の劇団に移ったというのを聞いて、またまた驚いてしまった私です。


〜続きは、7日(土)!〜