矛盾を抱えながら、思いやりを持ちながら(4)


そんなTさんですが、「介護業界には矛盾がいっぱいある」とも言います。


「今年4月から介護保険が改正されたけれど、それまでと認定の仕方や要介護者の自己負担の割合が変わったことで、過去に受けられたサービスが中止されて困っている人もいる。要介護者へサービスを提供できないと、自分のような会社は仕事ができなくなるし、当の要介護者にとって快適な生活がどんどん遠くなってしまう場合もある。それはどう考えたっておかしい。もう少し、国や自治体が福祉への予算配分を考えてほしいと思うことはいっぱいあるよ」


Tさんは、「俺はお年寄りってだけで無条件にすごいって思う。いろんな経験をして今まで生きてきているんだから。子どもの頃、自分のじいちゃんやばあちゃんが大好きで『俺も早く年をとりたい』って思ったよ(笑)」とよく言います。


彼といろんな話をしながら、自分の祖母のことを含めて、そうしたお年寄りを最後まで大切にできない社会というのは、本当に成熟した社会とは言えないなあと感じます。


高齢化が進み、介護や医療の予算が切迫しているのはわかっているつもりです。でも、そこを削ってまで成し遂げることっていったいなんなのでしょうか?


人間、誰でも生きていれば年をとります。どんなに格差社会であったとしても、それは平等に訪れます。
そして、誰もがいつ何時、自分が「障害者」「要介護者」、そして介護を行う「介護者」になるかわからないのです。家族がその立場になる可能性を考えると、介護や福祉の問題というのは、誰にとっても、身近な自分の問題として考えられる問題なのではないでしょうか?


将来、介護や福祉の現場で働きたいと思っている人はもちろん、そうでない人も、考えてみてほしいのです。
この世界には、矛盾がいっぱいあること。
それを抱えながらも、少しずつよい方向に向かって行くために、自分は何をしたらいいのか?
まずは、知ることから、考えることが、大切なんだと思います。


祖母を施設に預けている私の母は、「現状を受け入れよう、施設のやることも母も見守るしかない」と努力しています。
兄を施設に預けているソーシャルワーカーのNさんは「障碍者と健常者が区別されることなくともに社会生活をするのが正常という、ノーマライゼーションの考えを広めたい」と語っています。


介護事業所で働く建築士であり福祉住環境コーディネーターであるTさんは「やっぱりこの仕事が好きだし、続けていきたい。そのためにはもっといろんな資格を取って力をつけたい」と言います。


私は、こうして折りに触れて介護や福祉に関して目にしたこと、耳にしたこと、思ったことをみなさんに伝えて、いろんな思いを共有したいと思っています。
介護や福祉の現場には、矛盾もいっぱいあるけれど、思いやりの心もいっぱいあると信じているから、やろうと思うのです。


ぜひ、高校生のみなさんにも、自分のまわりの介護・福祉に関して感じていることを伝えてみてください。
また、取り上げてほしい福祉関係、介護関係の仕事があったらぜひ教えてください。


一緒に、考えましょう!