失敗することでしか見えてこないものがある


こんにちは。
キャリア・アドバイザーの松尾順です。


今日は、フリーのホテルマン、すなわち「フリーランス・ホテリエ」として活躍されている江澤博己さんの講演会でお聞きした話をご紹介します。


江澤氏の仕事の原点は、「喜ばれたい」という気持ちだそうです。まさに、サービスを天職とすべく生まれてきた方だと言えるでしょうね!


さて、江澤さんは31歳で独立されていますが、独立直前までは新浦安のホテルで働いていました。


江澤さんがベルボーイ時代のある日のこと。


一人で宿泊していた妊婦さんが大阪の自宅に帰るため、チェックアウトしました。(浦安の実家に帰省されていたそうです)彼女の荷物を担当した江澤さん、身重の体で重い荷物を運ぶのは大変だろうと、JR新浦安駅の構内まで荷物を持ったままお供することにしました。さらに、江澤さんは妊婦さんと一緒に京葉線に乗り、なんと東京駅まで同乗、新幹線に荷物を乗せてお見送りしたそうです。(新大阪駅では、だんなさんがお出迎え)


妊婦さんは、期待を超える江澤さんのサービスに大感激され、以来、この妊婦さんとは手紙のやりとりをしているとおっしゃってました。ただし、ホテル側では、江澤さんが妊婦さんを東京駅まで送って戻ってくるまでの約2時間ほどの間、「江澤はどこに行ったんだ?」と大騒ぎだったそうです。(上司に連絡入れてなかったんですね・・・)


ホテルに戻った江澤さんが、果たして上司に叱られたのか、それとも褒められたのか、残念ながら講演会では話してくれませんでしたが、どっちだったんでしょうねぇ・・・?



この江澤さんのサービス、たった一人の妊婦さんのために2時間を費やしたわけです。サービスの生産性(効率性)的に見れば、「やりすぎ」なのかも知れません。


しかし、感激するサービスを受けた妊婦さんは、当然ながら江澤さん、そしてこのホテルの大ファンとなり、「東京に泊まるなら絶対このホテル」と繰り返し利用してくれたに違いありません。また、周囲にも好意的な口コミを広めてくれて、このホテルの評判をアップさせることに貢献したことでしょう。



江澤さんは、上記のようなエピソードを交えながらとても大事なことを教えてくれました。


それは、

お客さんにとって「ちょうどよい水準のサービス」というものがあるとして、それがどの程度であるかを知るには、実際にサービスを提供して、それに対するお客さんの反応を見ながら微調整していくしかない

と言うことでした。


ある時は、「サービスの行き過ぎ」でお客さんに気持ち悪がられた・・・客の立場で考えると、あまり気を回し過ぎたサービスは、「そこまでやらなくても」と感じることがありますよね。


またある時には、「サービスの足りなさ過ぎ」で、お客さんから叱られた・・・江澤さんは、こうした「失敗経験」を繰り返しながら、少しずつ「ちょうどよい水準のサービス」というものを体得していったというわけです。



すでにおわかりだと思いますが、先週書いた「失敗して賢くなる」のひとつの実例が、この江澤さんの話です。


江澤さんは、毎日のホテルマンの業務の中で、失敗を恐れることなく、「喜ばれたい」という真摯な思いを胸に、さまざまなサービスにチャレンジしました。彼の提供するサービスは、時に行き過ぎたり、足りなさ過ぎたりすることがあったけれども、そうした失敗を積み重ねたからこそ、行き過ぎない、足りなさ過ぎない「適切なサービス水準」を発見できたのです。


失敗することでしか見えてこないものがある。


これは、何についても言えることじゃないでしょうか?


(キャリア・アドバイザー 松尾順)