仕事という演劇


こんにちは。
キャリア・アドバイザーの松尾順です。


私が、仕事についてよく使う比喩(たとえ)があります。それは次のようなものです。

「会社(職場)は、『舞台』である。その舞台の上では、『仕事』という劇が繰り広げられる。そして、あなたは、劇の上では『あなた自身』という主役を演じる役者である。」

つまり、仕事を「演劇」に見立てているのですが、このたとえからは、さまざまな「気づき」や「示唆」を取り出すことができます。




まず、役者のあなたにとっての「舞台」とは何なんでしょうか。


ひとことで言えば、「仕事」という劇を行うための「場」ですが、この舞台の形は様々です。大きかったり小さかったり、丸かったり三角だったり、波打っていたり・・・実にいろいろなタイプの舞台があります。


そこで、役者のあなたとしては舞台との相性が大事になってきますよね。私は大きいほうがいい、逆に小さいほうがいい、平らがいい、デコボコがいい、いろいろ好みが分かれるところでしょう。やりやすい舞台を選ぶことが必要になってきます。


また、今はこの舞台がいいと感じていても、自分の仕事の演じ方のスタイルが変わると、だんだんしっくりこなくなることもある。その時は、新しい舞台を探す時かもしれません。これは、「転職」を意味するわけですが。


ただし、どんな舞台が自分に合っているかは、駆け出しの役者(新人さん)には判断能力がありません。しばらくは、どんな形であれ、舞台に自分を合わせて演技力(仕事力)を高めることに注力すべきでしょう。自分の演技の下手なことを、「舞台が悪いから」などと舞台のせいにしないように。




そして、舞台で演じられる「仕事」という劇。


劇には「台本」がつきものですよね。しかし、本当の演劇と違って劇作家が「台本」を書いてくれるわけではありません。主役を演じるあなた自身が、自分のための台本を書かなければなりません。だって、自分の人生、自分のキャリアですよ。他人(親も含め)が書いた台本通りに、演じたくはないですよね?


でも、うっかり台本を書くのを忘れていると、他人の思い通りに演じざるを得なくなるような台本を書かれてしまいます。この「台本」こそが「キャリアデザイン」に該当します。自分のキャリアの設計は自分できちんと書く。他人に書かせてはいけません。


GE(General Electric)の元CEO、ジャック・ウェルチ氏が言った、次の言葉を胸に刻んでおきましょう。

“Control your own destiny, or others will.”

 - あなた自身の運命は自分でコントロールしなさい、さもなければ他人にコントロールされるよ -


さて、台本について留意しておきたいのが、本当の演劇と違って、細部まで書き込んだ台本は作れないという点です。「仕事」という劇の台本においては、せいぜい各章のタイトルや場面展開といった大まかな流れしか書けません。ですから、あとは、成り行きまかせ、他の役者さんたちと即興劇を行わざるを得ないのです。


なぜそうなのでしょうか?


それは、第一に、会社(職場)という舞台は外に開かれているからです。いわば野外劇のようなもの。雨が降ったり、灼熱の太陽に照らされたりと、環境がどんどん変化していくので、その変化に合わせて演技を柔軟に変える必要があります。固定された台本はかえって役に立ちません。


第二に、主役のあなたと絡む他の役者さんたちは、あなたから見れば「脇役」ですが、他の役者さんもそれぞれ、自分の人生、仕事の「主役」という意識で関わってきます。つまり、各役者は、自分が「主役」となっている台本を持ちつつ、舞台(会社)では共演するのが、「仕事」という劇の複雑なところです。時に人気の役柄(社長とか)を巡って争そうことも起きる。ですから、劇がどう展開していくかは、あなたの動きやせりふと、それに対する共演者の反応次第でどんどん変わっていくのです。


「仕事」という劇においては、大きな流れを自分で押さえつつ、即興での立ち回りの良し悪しが問われていくということがいえます。




さあ・・・

  • あなたはどんな舞台に立ちたいですか?
  • どんな劇の台本を書きたいですか?
  • その劇で、あなたはどんな役柄を演じたいですか?
  • その劇で、あなたなどんな役者と共演したいですか?


仕事という演劇のたとえで、キャリアを考えてみるのは結構楽しい作業ですよ。


(キャリア・アドバイザー 松尾順)