キャリアは長丁場だ。簡単にあきらめるな!


私が愛読しているメールマガジンのひとつ、「プレジデントビジョン」の最新号(Vol.640、2007/12/21)の編集後記に驚くべきことが書いてありました。


プレジデントビジョンは、ベンチャー企業の社長に取材した内容が掲載されている無料のメルマガです。現在の発行部数18万部以上。様々な分野のベンチャー企業経営者が、現在に至るまでの苦労話などを赤裸々に語ってくれていて、とても面白く、また参考になるメルマガですよ。


このメルマガの取材、および執筆を行っているのは、(株)ライブレボリューションの社長、増永寛之氏です。増永氏自身も創業時の苦難を乗り越え、自社を軌道に乗せることに成功した優れた経営者。まだ30代前半ながら、明確なビジョンと経営理念を持ち、軸のぶれない経営を推し進めていることがうかがえます。今後どこまで大きな存在になるのか楽しみな、若手経営者の中でもとびきりの注目株だと個人的には思っています。




さて、プレジデントビジョンの編集後記によれば、増永氏が先日、日本を代表し、社会人であれば知らぬものはいない超一流企業の採用担当の責任者に会った際、次のようなことを言われたのだそうです。

「学生なんて、ほっといても何万人とくるんですよ。だから、学生一人ひとりとの対話なんてしたくないです。学生の顔を見て仕事をしていますかって?見ているわけがないでしょう。ナイショの就職協定との兼ね合いで、4月までは面接できません。それなのに5月の連休までに内定を出さなきゃいけない。数百人レベルの内定を出すのに、顔なんて見てないですよ。学生の幸せですか?関係ないですよ。入社後だって顔を合わせないんだから。人間性?そんなのわかるんですかね?」


そしてまた、その会社では、採用は「学歴順」で行われていることも増永氏に教えてくれました。なぜなら、内定を出した時点では活躍するかどうかわからないからです。したがって、採用担当者の評価は、高学歴(有名大学)の人材を何人採ったかで決まります。


また、縁故採用も当然。縁故採用の何が悪いという感じです。なぜなら、有名大企業役員のご子息を採用した方が、一般の学生を採用するより儲かるからです(言うまでもなく、取引企業との関係が強まるからですね)。ですから、一般学生とは別に、縁故採用のための特別枠が大企業では設定されています。




冒頭、「驚くべきこと」と書きましたが、実際には、上記のような大企業の採用方法については、社会人にとってはいまさら驚くこともない周知の事実だと思います(増永氏は、前述の大手企業の採用方法は社会人なら誰でも知っていることだが、就活生はほとんど知らないと指摘しています)。とはいえ、こうした歪んだ採用方法がいまだに根強く続いていることが、大手一流企業の採用担当責任者自身から平然と語られてしまうと、さすがに開いた口がふさがりません。


一方で、相変わらず学生の大手企業志向、ブランド企業志向は根強いものがありますね。どんなに大手企業への就職を希望したとしても、大手企業の採用の実態は上述したとおり。個々の学生の人間性を無視した学歴順の機械的採用で決まってしまうのですが。それでも、学生の大手志向はある意味仕方がないことだとは思います。誰だって、みんなが知ってる大企業に勤めたいものです。このため、社会人の中には、大手企業に入れなかった挫折感を持ったまま働いている方もいらっしゃるかもしれません。



しかし、今改めて認識してほしいのは、最初の就職時にどこの会社に入るかでキャリアの大部分が決まってしまった時代はとっくに終わっているということです。そもそも、「就職」、というか「就社」は、キャリアを形成するための第一歩を踏み出したことに過ぎません。大事なのは、自分はどんなキャリアを作っていくのかであり、どの会社に属しているかは二の次です。以前も書きましたが、「会社」は、自分という主役を演じるための「舞台」に過ぎないのです。


ですから、もし大手企業に入れなかったからといって落ち込むことはありません。近年は、大手企業も中途採用に積極的です。今の会社で経験を積み、能力を磨いていけば、中途で大手企業に入ることは決して夢ではありません。働き始めてからは、どんな能力を持っているかが、学歴や縁故よりも重要視されるからです。実際、私の友人の一人は、社員数人の中小企業で働いていましたが、そこで磨いた専門性が認められ、いくつかの転職を経て、現在は誰でも知っているグローバルな大企業への転職を果たしています。



おっと、こんな書き方をすると、大手企業で働くのがキャリアの理想であるかのように私が考えていると誤解されてしまうかもしれませんね。決してそんなことはありません。キャリアの理想は人それぞれです。大企業で働くのが向いている人、中小企業の方が向いている人、私のように独立した方が楽しい人など、自分なりの理想を持てばいい。


ただ、目先の就職や転職に失敗したからといって、簡単にあきらめる必要はないということを申し上げたいのです。キャリアは、最低でも40年は続く長丁場です。敗者復活戦のチャンスは何度もあります。あなたが、どんな状況にあっても決して腐らず、自分の能力を磨き続けさえすれば、自分の望みのキャリアを手にするチャンスをきっと掴むことができるでしょう。


(キャリア・アドバイザー 松尾順)