仕事の幅も広がる、私的流理系のすすめ(2)


大学受験の先にあるもの〜職業を考える〜


【執筆】小谷祐子(フリーライター


超理系コンプレックスを抱え社会人になってしまった私ですが、高校のとき唯一好きだった授業があります。
それは「化学」!
正確にいうと、化学の実験です。


ま〜、本当のところは化学の実験で同じ班だった男子に片思いしていたというのがものすごい強い理由なのですが(笑)、それでも、ビーカーやフラスコを扱って液体を混ぜ合わせたり、電気分解の実験をしたりすると、元素記号で現される式が、具体的な現象として現れるので楽しかったことを覚えています。


印象的だったのが、化学の授業で豆腐を作ったこと!!
大豆と、天然にがりから作る本格手作り豆腐。でも、ビーカーとバーナーを使い、温度計で温度を測りながら作るので、調理実習ではなく、あくまで化学の実験としてでした。
こうした、文字通り“化学的な過程”から、豆腐という身近な食材ができるということに、驚きを覚えたものです。天然のにがりを使ったものだったので、かなりおいしかった記憶があります。
ちなみに、にがりとは塩化マグネシウム水溶液のことですね、化学の実験的には。


最近、ある文房具メーカーでボールペンのインクを作っている研究室で働く人を訪ねたことがあるのですが、そこには色とりどりのビーカーが並べられ、さまざまな実験器具が並べられていました。
彼曰く、
「こういうごちゃごちゃした実験室にいると、わくわくするんですよ。高校の理科の実験と同じですね」


また、私の友人に栄養ドリンクを作っているメーカーの研究所で働いている人がいるのですが、彼女曰く、「栄養素はもちろん、自分が飲んでみておいしいかを基準にして作っているよ」とのこと。
そういえば彼女はいろいろと料理をするのも好きなようですが、話を聞いていると
「コレとこれを組み合わせたらどんな味がするかな〜って、想像しながら作っている。ものすごい変な味がすることもあってびっくり! レシピ? そんなものは見ないよ」
と笑います。
彼女にとっては、日常の料理も、化学の実験の延長のようです。


さらに、Z会基礎科情報誌『Azest』のおシゴトBOXインタビューでお話をうかがったSさん。
Sさんはあるお菓子メーカーで商品開発の仕事をされています。詳しい内容は10月号の本誌を楽しみに待っていてほしいのですが、
「商品開発部というのは、いろんな部門の社歴を持った人が集まります。営業や広報出身の人もいれば、研究所や工場で働いていた技術者もいます。私は研究所出身なので、技術的なアプローチから商品開発をやっていくタイプの人間です」
とSさん。
聞けば、実家の近くにある食品メーカーの工場があり、子供のころから漠然と「将来は、食品会社の研究開発の仕事がしたい」と思っていたとのこと。
「これは、理系人間の考え方かもしれませんが、ある特定の分野にものすごく深く入り込んでそこで名を馳せたいという思いがありまして。私もやるなら頂点を極めたいと思っています」
Sさんは、誰もが一度は手にしたことのあるお菓子の開発を通じて、世界一の研究者になろうとしているのです。


Sさんの話を聞いていると、理工系のある分野に狭くても深く夢中になって入り込むことで、いつしか大勢の人が便利に思えたり、幸せに感じたり、役に立ったりすることにつながるのだなあと感じます。


考えてみれば、私も食べることは大好きだし、化学の実験は好きだったんだから、その「好き」って気持ちをもっともっと膨らませれば、たとえ化学のスペシャリストにはなれなかったとしても、豆腐メーカーの商品開発部に行っていたってよかったのかもしれない。
高校時代の「好き」って気持ちを、理科の何かの授業とうまく結びつけられたら、将来の進路がぐっと広がるような気がするのです。


たとえ、技術者や研究者にならないとしても、理数系の要素があったほうが、モノづくりの会社で働くことはぐっと楽しくなるに違いありません。