矛盾を抱えながら、思いやりを持ちながら(2)


大学受験の先にあるもの〜職業を考える〜


【執筆】小谷祐子(フリーライター


福祉や介護の仕事を考えるときに、私がいつも思い出す友人がいます。
もう10年近く前に知り合った人で、今はなかなか会えないでいる友人なのですが、彼女(仮にNさんとしましょう)は大学で福祉を学び、卒業後は病院のソーシャルワーカーとして活躍している人でした。


病院のソーシャルワーカーとは、病院、保健所などの社会福祉相談室(ソーシャルワーカー室)に勤務し、患者の立場に立って相談にのり、主に生活面でのサポートをする役割を担う人です。
例えば、入院患者や家族が入院費用や生活費に困っている場合、保険や治療費の減免制度をアドバイスしたり、
退院後どのようにケアをしたらいいか、どんな福祉施設の利用が可能かなど、患者や家族が抱えている様々な問題について相談にのり、解決するための援助を行います。


Nさんはとても明るく活発で可愛い女性で、そして仕事への情熱を強く持っている人でした。難関と言われる社会福祉士の試験にも合格しており、また、病院で開かれるホームヘルパー2級などの資格講座の講師を勤めたり、自分たちの病院での取り組みを学会で発表したり、また近年、仕事の幅を広げようとケアマネージャーの資格も勉強していました。


彼女がなぜ、福祉への道へ進もうと思ったか? それは、彼女の2つ年上の兄が自閉症という病気を抱えていたことと決して無関係ではありません。
彼女はよく、

「子どもの頃、普通にお兄ちゃんと遊んでいるだけでまわりから奇異な目で見られた。でも、自分にとってお兄ちゃんはお兄ちゃんでしかない」

「障害者って何?そういわれる人のこと、考えたことある? 例えば足を怪我して車いすになった。『今日からあなたは障害者です』って言われてどう? あなたは、あなたのままでしょ?」

「『あなたは“害”だってどういうこと?私は障害者ではなく“障碍者”という字を使いたいと思う」
碍は「ささえる」という意味も持つ「礙」の俗字です。


Nさんは「本当は施設や病院に入れたりしたくないし、自分で面倒みたい。でも、できない」という家族の方の悩みに直面するといいます。そんなとき、「施設に預けることは決して悪いことではない。そのために私たちがいるんだから」と自信を持って、福祉施設の利用をすすめていると言っていました。


あるとき彼女が「先週からお兄ちゃんが施設から家に帰ってきているんだ。もうてんやわんやで大変だよ」といいながらとっても楽しそう。
「でも、お兄ちゃんを施設に返す日になると、心の底で『お兄ちゃん、ごめんね、ごめんね』って泣いちゃうんだ。自分の患者さんには施設の利用をすすめておいて、自分はこの有様。施設に預ける罪悪感が、あるんだよ。ああ、私はまだまだだなって思うんだ」と話してくれたことがありました。


そんな矛盾を、プロとして働いている彼女だって抱えています。逆に、プロだからこそ、その思いがいっそう強くなるのかもしれません。
私は、彼女のような友人に持っていることを、今でも誇りに思っています。


〜続きは、9日(土)に!〜