俳優の卵から教わったこと(3)


大学受験の先にあるもの〜職業を考える〜


【執筆】小谷祐子(フリーライター



別の劇団に移ったという友人。なぜ? ずいぶん劇団の上層部にも気に入られていたようだったのに。
「なんか、演じていて違和感を感じるようになったんだよね。表現の方法が自分には合わないとうか…。セリフも素直に出てこないし、『え、なんでここで観客を笑わせなきゃいけないの? なぜここで踊るの?』って思うものも多くて。全力で役に取り組めないんだ」


彼が次に選んだ劇団は、舞台道具がいっさいなく、ひたすら俳優のセリフと動きで舞台を作り上げていくという劇団。主宰者は著名な演出家でもありますが、演劇を勉強する中で、たくさんの劇団の芝居を見る中で、自分もその舞台に立ちたいと思い、オーディションを受けたと言います。


そこに合格してしまうところが、友人としてひたすら関心してしまうのですが、彼は、最初の劇団で舞台に立つ俳優としての心得を身体で覚え、演劇の場数をどんどん踏むうちに、表現者としての欲が出てきたようです。


以前いた劇団が、観客を楽しませることに重きを置いた舞台だったとしたら、次に移った劇団は俳優がメッセージを発することに重きを置いた舞台といいましょうか。
これはあくまで私の主観であって、劇団にはそれぞれ両方の側面があると思うのですが、少なくとも、以前の舞台より「役の彼」と「素の彼」が近づいたような気がします。


もちろん、俳優というのは役を演じる訳ですから、100%自分自身と重なるということはないのでしょうけれど(その必要もないのかもしれませんが)、「ああ、こっちの舞台のほうが、俳優としての彼を輝かせるな」というのは、着実に感じました。


そして、しばらくご無沙汰していたときに、先日、「舞台をやります」というメールがきたのです。


会社員を辞めて俳優となりもう5、6年経ったでしょうか。
別の劇団に移ってからも3年くらい経過しています。
最初に勤めた会社は1年ちょっとで辞めた彼ですが、俳優という一見、将来が不安定な立場を今まで続けてきたのです。


努力を続けられる。これこそが、きっと夢を追うのに必要な才能なのでしょう。
そして、努力をし続ける舞台を自分で選ぶ、という姿を、彼は私に見せてくれたのだと思うのです。


〜続きは、明日!〜