首都圏で、地方で働くリアルとは(4)


大学受験の先にあるもの〜職業を考える〜


【執筆】小谷祐子(フリーライター


さて、最後に紹介する男性モデルのSさん。
実はSさん、あまりモデルには慣れていません。
女性モデルのTさんの後輩らしく、撮影では彼女にリードされっぱなしでした。
さらに、今回は「カップル」という想定でしたので、ちょっと照れもあったようです。
モデルとしては、まだまだこれから、という方でした。


Sさん、もちろんモデルですから、容姿端麗。背もすらりと高くカッコイイ。
「ああ、やっぱり男も見た目の時代かな〜。容姿に自信があるから、モデルになっちゃったんだなあ」なんて思い、
「きっともう一つの職業は、バーテンとかDJとか、そんなトコかな?」と思っていたのですが、
これがビックリ!


Sさん、「僕は、小学校の教師やってます」とのことでした。
「え? 小学校の先生がバイト? それっていいの?」と思い、詳しく聞くと
「臨時教員という立場なのですが、担当しているのは、障害児教育、いわゆる特殊学級なんです」


モデルと障害児教育をしている先生。
私の中で、相反する2つの職業で、しばしびっくりしたのですが、彼はさらに続けます。
「今、ADHDやADDという発達障害の子どもが増えているといいますが、そういう子どもたちが昔からいたんですよね。
授業中に歩き回ったり、よそ見をしたり、騒いだりする子どもはいつの時代でもいるのです。
でも、今、発達障害という名前がついて、『それは病気なんだ』と認識さえたことで、子どもたちにとってよい方向に行っていると思います。
ああいう発達障害って、ある意味、天才と紙一重かもしれないんです。
アインシュタインじゃないですけれど、発明家とか芸術家って、一つの方向にが〜っと向いている人ですよね。
発達障害の子どもにもそういうところがある。向く方向、対象が悪い方に向かなければ、僕はいいと思っているんです。
それをよい方向に向かせるのが、僕たちの役割で、それはとっても難しいんですけれど…」


Tさんから「さすが先生、しゃべりが得意だね!」と言われるほど、Sさんは饒舌に自分のことを語ってくれました。
このときは時間がなくて、詳しくはうかがえなかったのですが、いつか「障害児教育で大切なことは?」とか、
「なぜ福祉の道を選んだのですか?」など、聞いてみたいと思いました。


今回、東北地方在住のクリエイターの方たちとお仕事をして私が見たこと、感じたことなど紹介してきましたが、
一番印象的だったのは、彼らがみな、「リアル」な世界感を持ちながら、仕事をしていること。
雑誌の誌面という、ある意味バーチャルな世界を創造するのがカメラマン、モデルの役割ですが、
そこには、地に足をつけた堅実な姿がありました。


カメラマンのIさんは、野菜やお米づくりなど、土というリアルな自然に日々接しながら仕事をし、
女性モデルのTさんは、自分の住んでいる仙台という土地のリアルな風土を意識しながら過ごしている。
男性モデルのSさんは、障害児教育という、人間のリアルと向き合いながら仕事をしています。


ネットで情報を集めたり、メールで連絡を取り合ったり、こうしたブログ原稿のやり取りだけになってしまうと、
ふと、自分はバーチャルな世界でのみ、シゴトをしているような気になって、不安になるのも事実です。


だから、私は普段は行かない土地で、普段は接しない人たちと一緒にお仕事をすると、
「ああ、自分がいる世界だけがすべてではないんだな」と思い、自分のリアルさも取り戻すことができます。


私は首都圏でしか仕事をしたことがありませんが、
今後は、もっと地方の方と仕事を通じていろんなコミュニケーションをとって行きたいし、
土地それぞれが、人それぞれが持つ、リアルをいっぱいに感じて仕事をしていきたい。
ブログという中で、そんなリアルをこれからもいっぱい伝えていけたらと思っています。