縦軸を伸ばすしかない


こんにちは。
キャリア・アドバイザーの松尾です。


あまり想像するのは気がすすまないと思いますが、「退屈な人生」ってどんなものだと思いますか?



最初に頭に思い浮かぶのは、おそらく動物園の檻の中で暮らす動物たちじゃないでしょうか。野生に比べれば、動物園での生活は至れり尽くせり。空腹を抱えて必死で狩りをする必要もなく、毎日、栄養のバランスまで考えられた食事が、上げ膳据え膳で出てきます。3食昼寝付きの気楽な毎日です。


しかし、文字通り、食べることと寝ること以外にやることのない単調な日々が続きます。動物たちには、チーターのように走るのが速かったり、樹上生活者のオランウータンのように、握力が300-500kgもあったりと、それぞれ固有の能力が生まれながらに備わっています。ところが、狭い檻に閉じ込められたままの動物たちは、こうしたすばらしい能力を発揮する機会もなく一生を終えることになるのです。



さいころに動物園に行った時、檻の中の動物たちに対してなんとなく、「哀れみ」の気持ちが湧いたのは、「自由を奪われた変化の乏しい単調な毎日は、動物にとっても退屈なものなんだろうな」ということを無意識に感じていたからなんでしょう。


そう、退屈な人生とは、単調で変化の乏しい毎日のことなんですよね。とりわけ、人間は、単に生きるだけで満足することができない動物です。人は、自分の人生になんらかの意味や価値を見出さずにいられない。ですから、退屈な人生を送りたいと思っている人は、ほとんどいないと思います。


でも、本人が実際に退屈と感じているかどうかはさておき、平日は家と職場の往復だけ、休日は、家でごろごろしていて一日が終わるという、単調な毎日を送っている方も少なくありません。なお、家と職場の間に「行きつけの飲み屋」がはさまる人もいるでしょうけど。(笑)



人は、新しいこと、未知のことの出会いといった変化を求める一方で、不安や心配のない、安全で安心できる状態も同時に求めるという矛盾した心理を併せ持っています。もし、あなたが、日々、新しい行動を避け、慣れ親しんだ行動を繰り返してしまっているとすれば、それは、安全・安心を過度に追い求めている結果なのかもしれません。


私は、安心・安全を重視した生き方を否定するつもりはありません。人それぞれ、自分が納得できる生き方をすればいい。でも、あなたが、人生をもっと楽しく、わくわくする、彩りのあるものにしたいと願うのなら、安住の地から意識的に飛び出て、異質な土地に行き、異質な人に会い、異質な経験を思い切ってやってみることをお勧めしたいと思います。もちろん、異質な体験は疲れるものです。慣れないことばかりで神経が張りつめますから。そんな時は、慣れ親しんだ土地、気の合う仲間たちのところに時々戻って休めばいいですよね。



さて、以前、吉本興業(株)の元常務、木村政雄氏の講演をお聞きしたことがあります。木村さんのしゃべりは、さすが吉本興業。ご本人はお笑い芸人ではありませんが、とびっきりの面白さ。なかでも、人生における「年齢」を横軸に、「経験の数」を縦軸にとってみるという話がとても印象に残っています。


横軸の長さは、私たちそれぞれ寿命がありますから決まっています。平均寿命で80歳ちょっとというところですよね。つまり、横軸はこれ以上は伸ばしようがないわけです。でも、縦軸の経験の数、私は、「異質な経験の数」と補足したいと思いますが、それは本人の意欲しだいでいくらでも伸ばせます。自分の知らない世界、おもろい人に会いたい、そんな思いで行動する人の縦軸の長さはどんどん長くなっていきます。


そして、自分の人生の充実度を横軸(年齢)と縦軸(異質な経験の数)の積、つまり四角形の面積の大きさで表すとするなら、その面積を大きくするためには、縦軸を伸ばすしかないのです。


縦軸を伸ばす、つまり、異質な経験をたくさんすればするほど、確実にあなたの人生の面積は広がる。すなわち、それはさらに楽しい、わくわくする、充実した人生となることを意味しているのです。


(キャリア・アドバイザー 松尾順)