キャリアの賞味期限の延ばし方


こんにちは。
キャリア・アドバイザーの松尾です。


ケーキ屋やスーパーの生鮮コーナー等に置いてある商品には、賞味期限がシールで貼り付けてありますよね。店によっては、売れ残りの商品に再度新しいシールを貼って、賞味期限をこっそり延ばすところがあるそうです。食品メーカーの中にも、返品されてきた商品に、最新の製造年月日や賞味期限のシールを貼り直して再出荷していた事実が、内部告発で暴露されたところがありましたね。実に悪質な行為ですが、いくら見かけだけ賞味期限を延ばしても、食品はいつか必ず腐敗してしまいます。



さて、「人間にも賞味期限がある」という、ショッキングな言葉をズバリと投げかけるのは、前回もご紹介した元吉本興業常務の木村政雄氏です。私も、初めて聞いた時には、「きつい言葉だなあ」と思いました。しかし、現実を直視するにはこのくらい厳しい言葉を受け止める必要があるかもしれません。


今、あなたがどんなに優れた知識やスキルを持っていたとしても、未来永劫ずっと通用することはまずありません。いつか必ず、時代遅れとなり、役に立たなくなってしまう日がやってきます。


木村氏の場合、栄枯盛衰の激しいタレントの世界にいらしたので、とりわけ「人間の賞味期限」について実感される機会が多かったんだと思います。絶大な人気を誇ったお笑い芸人やタレントが、たちまち消えてしまう。エンタテイメントの世界は、実に賞味期限が短いのです。ところが、そんな厳しい世界でも、ビートたけし北野武)のように、俳優、監督としても活躍し、長期にわたって人気を維持することのできる人もいます。



長期にわたって人気を維持しているタレントやアーティストは、それだけの多彩な才能をはじめから備えていたのかもしれません。しかし、現状の人気に溺れてしまうことなく、さまざまな潜在的な才能を次々と開発する努力を続けたから、生き残ってこれたのではないでしょうか。


たとえば、マドンナや松田聖子は、エンタテイメントの世界の厳しい現実を直視し、不断の努力によって新たな魅力を大衆に提示し続けています。だからこそ、いまだにトップスターの座を守っているのです。逆に、あふれる才能を持ちながら、賞味期限が残り少ないことに目を向けず、怠惰に流され同じ芸を繰り返した結果、ポイとごみ箱に捨てられたかのように声がかからなくなる。そんな芸人も多いですよね。あえて、具体例は出しませんが・・・



人は、食品と違って、賞味期限を延ばそうと思えば延ばすことができます。ただし、正確には「延ばす」のではなく、実質的には「中味を入れ替える」ということです。すなわち、賞味期限を延ばすためには、通用しなくなった古い知識やスキルを捨て、これから必要とされる知識やスキルを新たに習得することが求められるのです。


もし、あなたが自分の賞味期限を延ばしたいと願うなら、まず「賞味期限が来るのは何年先になりそうか」を客観的に判断しなければなりません。自分ではよくわからないというのであれば、社会経済動向や、業界動向に詳しい先輩や有識者の方に聞いてみましょう。その結果、たとえばあなたの賞味期限は残り3年くらいと判断できたとします。そうしたら、その3年の間、あなたは新たな知識・スキルを習得すべく、今の仕事と並行して学習を行うのです。そして、少しずつ古いものを新しいものに置き換えていく。



要するに、賞味期限を延ばすためには、以前も書いたように「学び続ける」ことが必要なのです。このことは、変化の激しい現代において本当に重要なことだと改めて思います。


従来は、キャリアとは「蓄積」するものだと言われてきました。長年の現場経験を通じて得られる知識、スキルが価値を持ったわけです。もちろん、職人の世界では依然として経験から来る蓄積が重要です。しかし、デスクワーク主体の仕事では、ITの進展によって仕事のやり方自体が根底から変化しつつあります。そこで要求される知識やスキルは、しばしば新規に学ばなければならない、まったく新しいものであることが多いですよね。したがって、「蓄積」するというよりは、「更新」(新たに置き換える)することだと言えるでしょう。


これからは、「キャリア蓄積」ではなく、「キャリア更新」を行うことが、あなたのキャリアの賞味期限を延ばすためには必須なのです。


(キャリア・アドバイザー 松尾順)