中学生の作文から学ぶもの


私はこの10年間ほど、中学生作文コンテストの第1次審査のボランティアをしています。
第1次審査というのは、名のある先生方が審査しやすいように、入賞する可能性のない作品を最初の段階で絞る作業です。
全国規模のコンテストなので、静岡県だけでも1300もの作品が集まりますが、本選に推薦できる作品は10作品少々、つまりわずか1%程度で、その数は例年ほぼ変わりません。とても厳しい世界です。


さて、「入賞する可能性のない作品」とは、どういうものでしょう。
逆に、1%に入る作品は、残りの99%の作品とどこが違うと思いますか。


実は、そんなに驚くような秘密があるわけではありません。多くの作品を読んでいる中で、「これはいいな」と思えるのは、実体験に裏付けられている作品なのです。
いくらうまい文章で書かれていても、「本で読んで/テレビで見て、こう思った」という作品では物足りません。また、「これからがんばってこうしたい」という未来に向けた決意だけでも、心は動かされません。
すでに具体的に何かをしていて、そこからさらに未来を見つめている作品が心を打つのです。


とはいうものの、中学生ではまだ親の保護下にある身、それほどすごい体験ができる人はいません。だから、ほとんどの作品は心に残りません。
また、本人の意志とは関係なく、親などの都合で、中学生とは思えないような体験をしている人がいます。そういう人が、その体験をうまく文章にすると、入選する可能性が高いことは否定できません。


しかし、ごく普通に中学生活を送っている人が近所の人との小さなふれあいに心を留めたり、みんなと同じようにゴミ拾いをしていながら他の人とは全く違う考えに至ったり、といったことはあります。
そのような、日常の行為の中から何か光るものを紡いできた作品があると、審査員自身も気づかされ、考えさせられ、嬉しくなってしまいます。


平凡の中から大切なものを見出す行為は、自分の一生を豊かなものにする最善の方策であり、そのことは、いくら年齢を重ねても忘れないようにしたいと思います。


(クロダ)