ウサギとカメの法則


こんにちは。
キャリア・アドバイザーの松尾順です。


先日、四国に過去3年ほど仕事のために滞在し、今年の春に東京に戻ってきたばかりの友人(女性)の話を聴く機会がありました。彼女(以降、Yさんと呼びます)は、せっかく四国に長期滞在するのだからと、「お遍路」に挑戦。88カ所もの札所(お寺)の巡礼を「徒歩」で見事達成しました。(Yさんによれば、お遍路さんを徒歩で回る人は少数派らしいですね。多くの人が、車や交通機関を利用するそうです。)


私は、この「お遍路」について、人間に「88」あるとされる煩悩と同じ数のお寺を巡ることで、それらの煩悩が消え、願いが叶うらしい、といった程度の知識しか持っていませんでした。失礼ながら、皆さんも「お遍路」に詳しい方はそれほど多くないんじゃないかと思います。Yさんも、四国に行くまでは「お遍路」にさほど興味があったわけではなく、実際に自分自身が「お遍路さん」となって体験することで、いろいろなことを学ぶことができたと言っていました。



さて、Yさんのお遍路さん話は本当に興味深く、面白いネタ満載だったのですが、今回はその中からひとつだけご紹介したいと思います。


お遍路さんは年間約30万人にものぼり、そのうち徒歩の人は、少数派とは言え5000人もいます。Yさんも「お遍路」の途中でたくさんの同志、すなわち、お遍路さんたちに出会いました。出会う人は老若男女さまざまですが、やはり定年後の記念に回るシニアの方が多いようです。


Yさんは、こうした人たちと同じ遍路をたどりながら、「ウサギとカメ」のおとぎ話を「実話」として語れる体験をしました。つまり、はりきって速足で歩く人は、最初のうちは確かに早く先に進みます。ところが、すぐに疲れるので休みが多くなったり、山道ではペースが大きくダウンしてしまう。その結果、倦まず弛まずマイペースで歩いた人が、早く目的地(次のお寺)に着くのだそうです。


小さい頃から単なる「寓話」として知っていただけの「ウサギとカメの法則」は、現実に起こっているということをお遍路さんになると実体験できるのですね。



私は、Yさんの話に感銘を受け、ウサギとカメの法則」について改めて考えてみることにしました。


ウサギの間違いは、「短距離走」ではなく、「長距離走」の勝負だということを考えていなかった点ですよね。ウサギのダッシュ力は、おそらくカメの数十倍あります。だから、短距離では負けることはありません。しかし、ダッシュ力は長時間持続できない。しばらくダッシュした後には、十分な休憩が必要になってしまいます。おとぎ話の中では、ウサギは油断して昼寝したことになっていますが、疲労のせいで長寝しすぎたんじゃないでしょうか(笑)。その結果、歩くスピードは遅いかもしれないけれど、着実に前進を続けた長距離走に強いカメに負けてしまったのです。


前述したように、この「ウサギとカメの法則」は、お遍路でも再現されていました。そして、おそらくYさんも実感されていると思いますが、ウサギとカメの競争にしろ、お遍路にしろ、それは「人生」と重ね合わせることができること、この人生とは「長距離走」であること、そして、「短期的な成果」はすぐにだめになること、むしろ、地道な努力を重ねてようやく実を結ぶような「長期的な成果」こそが、人生の本当の成功につながることをこのおとぎ話は教えてくれていたのだと私は思います。


最近は、やたらと効率やスピードが重視される風潮がありますよね。ビジネスの上でこれらのことが重要な要素であることは否定しません。しかし、それと「短期的な成功」を目指すことは違うと思います。


例えば、イケイケドンドンで事業を急速拡大、株式上場を果たして文字通り一夜にして大金を手にする起業家がいますよね。ところが、上場をピークに事業が一気に下り坂となり、あっという間に転落する人も多いわけです。短期的な成功には、反作用も大きいのです。上るのが早いと落ちるのも早い。得意絶頂期はすぐに過ぎ去り、天国から地獄へとまっさかさま。こんな「ウサギ人生」をあなたは望みますか?


私は「カメ人生」を目指しています。自分が心から求めることにじっくり真摯に取り組みたい。決して目先の成功を追わない。でも、ふと気づいた時、自分でもびっくりするほどの高みに達していたらいいなと思っています。


(キャリア・アドバイザー 松尾順)