回り道の人生だから、味がある


こんにちは。
キャリア・アドバイザーの松尾順です。


半年ほど前ですが、私が敬愛する経営コンサルタント、阪本啓一さんのメールマガジンで「回り道だよ人生は」というタイトルの回がありました。キャリアデザイン的に見て大変面白い内容だったので、いつかご紹介しようと思っていましたが、前回の「ウサギとカメの法則」と多少関連のある話ですので、今回取り上げたいと思います。



阪本さんは、『企画心』『リーダーこれだけ心得帖』『リーダーシップの教科書』など多数の著作や、欧米のビジネス書等の翻訳の実績を持つ気鋭のコンサルタント。私がメンバーの一人として参加しているバンドのリーダーでもあります。


さて、阪本さんが現在も数多く手がけている翻訳、著述といった仕事は、まさに阪本さんが子どもの時にやりたかったことなのだそうです。阪本さんは小さいころ、「ムツゴロウ」こと畑正憲さんや、北杜夫さんのドクトルマンボウシリーズが好きで、「エッセイストになりたい」と思っていました。ところが、このことを母親に話すと、


「あかん。金にならん。そんなことより、あんたは医者になり。儲かるで」
原文ママ、阪本さんは関西人です。)


という一言が返ってきた。


そこで、素直な阪本さんは、医学部を目指すことにします。でも、理系はあまり得意じゃなかったようで医学部受験は取り止め。受験前に生まれて初めてできたガールフレンドが「ここ、いいじゃない」と指差した学部を受験します。幸いにもその学部に合格したものの、何を学問する学部なのかは、入学後に初めて知ったそうです。もちろん、学生時代はろくに勉強もせず8ミリ映画に熱中・・・


就職活動も、失礼ながら「行き当たりばったり」だったようです。そして、先輩に誘われるまま旭化成に入社。しかし、予想も希望もしていなかった「建材事業部」に配属され、入社早々9年間も地方勤務です。やる気がなくなり、ぼやいてばかりの毎日。阪本さんは、この時期のことを「塩漬けにされた」と表現しています。




ところが、ある時ふと天啓のように「どうしても会社を辞めるなら今しかない」「この本(Permission Marketing)を翻訳、日本に紹介するのはわししかいない」「独立創業ならニューヨークやんけ!」と、「根拠のない思い込み」で次々と自分の人生を展開していきます。そして今、阪本さんは横浜に事務所を置き、ユニークな分野へと事業を拡大中。著作、翻訳の案件も多数抱えていることは前述した通りです。


阪本さんは、メルマガの中で次のように書いています。

「根拠のない思い込み」で突っ走った結果が、現在のぼくです。そして、ぐるり、ぐるりとめぐって、こどものころにやりたかった仕事をさせていただいているのです。そう、まさに、自分の力の及ばない、どこか遠い「天」のようなところで航路図ができていて、流された結果ここまで来た、という感じ

この阪本さんのコメントを読むと、「運が良かっただけかな?」と感じてしまうかもしれませんね。でも、阪本さんは、やる気を失くしていたサラリーマン時代も、自分で必死に勉強していたのです。また、当時からメールマガジンを発行するなどして、積極的な情報発信を継続していました。私は当時からのメルマガ読者の一人です。そうやって、おそらく無意識に、小さいころからの「夢」の種火を消さずに燃やし続けていたのでしょう。ある日とうとう、この種火が阪本さんの心に火をつけ、人生初の翻訳、創業へと踏み切ったのでしょう。


阪本さんは、行動のきっかけを「根拠のない思い込み」と書いていますね。でも、自分の夢に客観的なデータなどそもそも必要ありません。自分が、心からそうしたいかどうか。周りがなんと言おうが、やりたいか。そして、「自分ならやれる」という確信があるか、が重要なのです。


そしてまた、阪本さんは

人生にショートカットはない。回り道だから、味がある。

とも書いています。


そう、私たちの多くは、仕事や人生において目指す夢や目標に、なかなか一直線に向かうことができません。「自分の人生、回り道ばっかり!」と感じる時がほとんどかも知れません。でも、最短距離でピューっと目標に到着するよりも、あれこれと遠回りして、いろんな経験をしながら目標にたどり着いた方が、どれだけ人生に深みがでることか。キャリアにしろ、人生にしろ、目標に到達することより大事なのは、目標に至るプロセスのヒダの大きさ・深さではないかと思います。阪本さんは、自らのキャリアを語りつつ、このことを教えてくれているのでしょう。


(キャリア・アドバイザー 松尾順)