「学歴社会」の捉え方

日曜なんですが、というより、日曜なので余裕がありますから(笑)、ちょっと教育についてマジメに書いてみたいと思います。


id:fluegel:20060129さんにトラバされて(トラバありがとうございます!)、“「学歴社会」という言葉の捉え方は人それぞれだなあ…”と感じました。
そもそも、「学歴社会」という言葉の発祥は、下記のとおりです。

  • 学歴社会(がくれきしゃかい)とは、欧米の先進国に対して、それに追いつこうと新進の発展途上の国々が対外的に国を開き、経済水準、防衛力の増強を図ろうとする場合、その国の中でリーダーシップを発揮できる人材として選ばれるためには、高度で質の高い教育を受けていなくてはならないと看做され、そのために我先にと高等教育機関に若者が殺到する現象(ウィキペディアより引用/多くの書籍でもこれに近い言い回しになっています)

つまり、

  • 学歴は、国の中枢の活動に参入するための「必要条件」

というのがそもそもの考え方で、結果的に学歴のある人の社会的地位が高くなっている現象を指して学歴社会というのは、拡大解釈なんです。


「(結果的に地位が高くなるを指すことは)学歴社会とは言わない」と否定する人もいますが、私(ブログ担当:寺西)は、拡大解釈の一つとしてあってもいいのでは、と感じています。
ただ、拡大解釈をする際に、上記のような原義を理解した上で運用した方がいいかな、とも思います。
「学歴」を肯定したり、否定したりするときに、この原義と拡大解釈の違いを捉えておかなければなかなか建設的な議論はできませんからね。
♯余談ですが、「最高学府」=「東大」というのは“拡大解釈”ではなく“誤用”の領域ですね。まだ。「最高学府」=「大学」(教育の最終局面である高等教育を受ける機関)という意味です。10年位前は、「クイズ赤っ恥青っ恥」という番組の中で「常識だよ!ワハハハ…」と司会者に笑われるように扱われた用語なんですが、今ではその誤用の方をはるかに多く見かけるにつけ、原義を確認することの大切さを実感しますね。


1月23日の日記で取り上げた苅谷教授の「学歴社会」は、この原義に基づいています。

  • 「成員の社会的地位を決定する学歴の力が相対的に大きい社会」(同教授著『「学歴社会」という神話』より引用)

という感じです。
ですので、「学歴のある人」がその本質的な能力をもってして社会的地位や企業の上位に「結果的に」上り詰める人の多い社会は、本質的な学歴社会とは異なり、「学歴」というものだけにぶら下がっていたらエスカレーターで偉くなっちゃう、というのが、本質的な「学歴社会」と言うわけです。


この視点で見たときに、上記の書籍では、日本は米国などに比べ学歴社会ではないとされています(教育社会学的視点からの考察)。
一方で、内閣府が実施する『青少年意識調査』において「大学を卒業した人は、主にどんな点から評価されますか?」という質問に対し、日本では「一流大学を出ているかどうかということ」が全選択肢の2位(約25%)を占めたのですが、アメリカではこの割合が日本に比べて少なかったのです(正確には忘れましたが、確か10%前半だったと記憶してます)。
簡単に言えば、実際には日本より「学歴社会」である米国の若者が、日本の若者より「学歴社会」と思っていない…
1月23日の日記で“「噂」や「先入観」、これが時によって判断を狂わせる例”として挙げさせて頂いたのは、このような観点からです。


私のあくまで個人的な考えでは

  • 原義でいうところの「学歴社会」は好ましくないが、結果的に「学歴社会」(上記でいうところの拡大解釈)になってしまうのは構わないのでは。というよりむしろ、結果的な「学歴社会」を認めず、否定するような、“ひがみ”が増長する社会が最も良くない

といったところです。
何度か講演させていたいたときにも申し上げたのですが、学歴は一種の「資格」だと捉えるのが良いと思うんですよ。
TOEICTOEFLの点数が良い人って、評価ポイントの一つですよね。それと同じで。
少なくとも、10代後半において人より学習指導要領的な「学力」を身に付けていた人間、ということは判断できるわけですからね。
ですから、就職のときなどは「うん、あなた、東大出てるんだ、すごいねえ」と思われ、評価されることはあっても、それだけですべてが通るようなパスポートになってしまうのが(社会としてみたときには)マズイ、という風に捉えれば。
…と書いていたら、この紹介とほとんど同じになっちゃっていることに気付きました(笑


実際、学歴だけで相対的に高い評価を与えすぎてきた企業は、今疲弊しているという話もチラホラ聞きます。
一方で、とある大手企業の人事担当者から、こんなことを言われたことがあります。
「うちの企業の応募者数、予定採用者数よりン百倍とかなんだぜ。エントリーシートの段階で客観的にわかる基準、学歴の他に余りないじゃん…」
これもこれで運用上の事実です。


ただ、その人事担当者は、こうとも話していました。
「でも、学歴がないから、といって、他のところを見ていないわけではない。アピールポイントの評価が他と余り変わらなければ、学歴で見てしまわざるを得ないだけで。学歴バカは会社をダメにするので、学歴がなくてもしっかりアピールしてくる人はしっかり採用している。そういう人が実際問題余りいないから、どうしても学歴偏重に見えてしまうだけで…」
若い皆さんにしっかり受け止めて欲しい言葉だと感じました。